未来の問題ではない:低炭素移行が今日の収益に与える影響
この記事は、ブルームバーグNEF、移行リスク責任者、Tifenn Brandilyが執筆しました。 BloombergNEF.
低炭素社会移行の初期段階においては、老舗企業が平等な恩恵を受けるというより、一握りの先駆企業が市場シェアを握るという傾向がありました。これは、インフラ開発と同様に製造業においても、コストひいては企業競争力決定の最大要因はスケールメリットだからです。
低炭素社会への移行が進む中、既存企業は厳しい選択を迫られています。それは、従来のビジネスモデルにこだわり、短期的な安定の維持を図るのか、あるいは長期的な資本集約的移行に踏み出して先駆企業に追いつくかの選択です。
この調査リポートは、過去およびバックキャスト型データを活用して、2015ー22年の期間に低炭素製品が導入された結果、自動車メーカー28社および米国の電力会社27社が失った売上高と獲得した売上高を定量化して示しています。
ブルームバーグNEF(BNEF)は、仮に電気自動車(EV)、風力発電および太陽光発電が商業的に成熟した段階に達していなかった場合、世界の自動車市場および米国の電力市場がどのような状況になっていたかを示す反事実シナリオを作成しました。このようにバックキャスティングにより得られたデータと15-22年までの過去の実績データを比較し、低炭素社会への移行が企業の売上高に及ぼす影響を明らかにしました。
世界の自動車セクターについては、EV、電動バイクおよび燃費基準の厳格化により失われた売上高は22年では総額3300億ドルに上ったと推測されます。内訳は、内燃機関(ICE)自動車メーカーの売上高減少が2030億ドル(全体の61%)、ICE二輪・三輪車の売上高減少が410億ドル(同13%)、ガソリンを主とする輸送燃料の需要減少が850億ドル(同26%)となっています。
自動車の電動化が進むにつれ、三種類の自動車メーカーが売り上げを伸ばしています。第一のグループは米テスラ、中国の比亜迪(BYD)などの「ディスラプター(破壊者)」タイプで、22年にEV製造事業において、両社はそれぞれ710億ドル、410億ドルの売上高を計上しており、実質的に機会損失は発生していません。 第二のグループは、「移行企業」タイプで、ドイツのBMW、メルセデス・ベンツグループ、中国の吉利汽車、欧州のStellantisが含まれています。このグループに関しては、現状の売上高が、仮に電動化が推進されなかった場合での売上高をはるかに上回っています。このグループは電動化を成長のための「踏切板」として活用しています。第三のグループは「アダプター(適合者)」タイプで、韓国の現代自動車、中国の上海汽車、東風汽車集団、および仏ルノーなどが含まれており、このグループでは売り上げへの影響はほぼゼロになっています。一方、対極に位置するグループは、電動化により収益創出能力が損なわれた「後発組」の米ゼネラル・モーターズ(GM)、スズキ、ホンダ、トヨタ自動車などで、仮にEVの販売がわずかなものにとどまる状況であったならば、後者は22年では200億ドルの利益を得たと思われます。
世界の自動車セクターについては、EV、電動バイクおよび燃費基準の厳格化により失われた売上高は22年では総額3300億ドルに上ったと推測されます。
BNEFの米国電力会社の移行影響評価では、22年において、ガス火力発電の売上高220億ドル、石炭火力発電の同140億ドル、原子力発電の同26億ドルが風力発電と太陽光発電により失われたことを示しています。米国電力会社全体で失われた純売上高の内訳は、 Vistraで22億ドル、Duke EnergyとEntergyを合わせて12億ドル、The Southern Companyで11億ドルになるとBNEFでは推定しています。 対照的に、この移行はNextEra、Edison、Avangridに大きな恩恵となり、それぞれ17億ドル、7億3200万ドル、6億2300万ドルの商機をもたらしたと推定されます。
風力発電、太陽光発電、EVが主流になるにつれ、既存企業と「ディスラプター」間の売上高のシフトは加速するでしょう。 BNEFは、米国において低炭素ソリューションにより既存の電力会社と自動車メーカーが22年に失った売上高は780億ドルと推定しています。25年までに失われる売上高は倍増し2030億ドルに達するとみています。
23年には、世界の低炭素移行に向けた投資額は1兆8000億ドルに達し、太陽光と風力は世界の発電量の14%を占め、世界の自動車販売台数のうちEVの占める割合は18%でした。
BNEFのお客さまは、こちらからリポートの全文にアクセスできます。