ネットゼロ目標との整合性を見直す
「ネットゼロ」という概念はその重要性にもかかわらず、依然として十分に理解されていません。
本稿は、ブルームバーグ数量指数リサーチャーであるLingjuan Maが執筆しました。
気候変動は世界の投資環境を変え、新たなリスクとチャンスを生み出しています。地球温暖化対策の国際合意「パリ協定」で掲げられた目標を達成するには、大幅で迅速、かつ持続的な温室効果ガス(GHG)の排出量削減が求められます。その結果、経済分野全域にわたって大きな変化が生じます。この流れの中で適切な対応を行わなければ、企業価値の低下につながるでしょう。ネットゼロ目標に整合したベンチマーク指数は、投資家が投資目的を達成するための有益なツールとなり、同時にネットゼロ経済への移行を支えます。
その重要性にもかかわらず、「ネットゼロ」という概念は依然として十分に理解されていません。さらに、各国はネットゼロ目標達成に向かって進んでいません。本稿では、ネットゼロを取り巻く誤解を掘り下げ、ネットゼロ目標との整合性を巡る当社の見解を示す例を挙げます。また、当社のソリューションについても詳しく説明します。
ネットゼロとは、人間活動に起因するGHG排出量が正味ゼロであることを意味し、人間活動により排出されるGHG量と除去されるGHG量が、差し引きして正味ゼロになる状態を指します。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動に関する最新の科学的知見を統合した報告書の一部として、モデル化した排出経路を収集し評価しています。図1は、GHG排出量のネットゼロ達成が必要な時期を示しています。一般的に、科学者は「行き過ぎ(オーバーシュート)ではない、もしくはオーバーシュートが限られた」排出経路に重点を置くことを好みます。オーバーシュートとは、パリ協定との整合性を保つために、世界の排出量が正味マイナスになる必要があることを意味しますが、正味マイナス排出量が実現する可能性は、技術的、政治的に疑問があります。
パリ協定に基づき、各国は気候変動問題へのコミットメントと緩和策の概要をまとめた「国が決定する貢献(NDC)」を提出することが求められています。図1の緑色の破線は、2021年の英グラスゴーでの国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の前に発表された、30年まで続くNDCが示唆する排出経路の中央値を示しています。
このような気候政策は、化石燃料インフラの継続的な構築を支えるものであり、30年までの排出量が増加していることによっても明らかです。実際、各国が今後コミットメントを見直し、強化することが期待されています。
ネットゼロ目標を達成するには、経済分野全域にわたって大きな変革が必要であると認識されています。投資家は、このような変革がもたらすリスクとチャンスを評価するツールを必要としています。
ここでベンチマーク指数が登場します。ネットゼロへの移行を支援するための効果的なツールとして、投資家は適切なベンチマーク指数を使用することができます。
年金基金や寄付基金は、ブルームバーグ・グローバル総合インデックスなどの広範な市場指数に連動するように投資しています。高い投資能力や低い回転率など、投資特性が望ましいことから、機関投資家は幅広いパッシブ・インデックスを採用しています。このことは、投資家が、低炭素経済への移行リスクを効果的に軽減するために、このような市場指数に依存すべきかどうかという問いを提起します。
広範な市場指数は、指数を構成するすべての企業が適切な時期にネットゼロ経済に移行すれば、ネットゼロ目標と整合したものになります。排出量と経済成長の最近のデカップリング(切り離し)にもかかわらず、国際エネルギー機関(IEA)は、世界の二酸化炭素(CO2)排出量は年間約1%増加し続けていると報告しています。
現在の排出量の傾向は、気候変動リスクの適切な価格設定とそれに対処するための政策措置を巡る不確実性と相まって、幅広い市場指数は移行リスクを十分に評価し対処するためのツールとしては有用ではない可能性を示唆しています。
低炭素指数が明らかな代替指数の一つとして広く普及しています。 このような指数は、より広範な市場指数よりも低いCO2排出原単位を達成することを目指しています。 低炭素の基準は通常、親指数全体の排出原単位に対する脱炭素化の固定比率を利用する、または各市場セグメントで最もパフォーマンスが高い企業を選定して設定されます。
このアプローチでは、往々にして、CO2排出原単位がより高いセグメントを犠牲にして脱炭素化が達成されます。これを説明するために、ブルームバーグ・グローバル総合社債インデックス(BGLCTRUU)から低炭素債券指数を、ブルームバーグ世界大中型株指数(WORLD Index)から低炭素株式指数を作成します。 トラッキング・エラーのリスクを管理するために、セクター・ニュートラリティを課します。結果は、両資産クラスで驚くほど類似しており、両指数とも、一貫してCO2排出原単位が最も低い地域(欧州)をオーバーウエートし、CO2排出原単位がより高い新興市場(EM)や米国のような地域をアンダーウエートしました。
パリ協定は、発展途上国のGHG排出量のピークが遅れることを認めています。CO2排出原単位の高いセグメントから資本を移動させることは、GHG排出量の低減と適合の努力を妨げ、物理的な気候危機へのエクスポージャーを高める可能性があります。 このエクスポージャーは信用力に悪影響を及ぼし、(ソブリン)債の利回りとスプレッドの上昇につながります。
脱炭素化のペースと形態はセクターや地域によって異なります。「Hard-to-Abate」と呼ばれるGHG排出削減が困難なセクターでは、依然としてコスト競争力のある脱炭素化技術が商業的に利用可能ではありません。これとは対照的に、電力セクターはエネルギー移行を先導し、新たな陸上風力発電や太陽光発電が多くの市場で最も費用対効果の高い電源として台頭しています。
先進国では主に、どのように脱炭素社会に移行していくかに焦点を当てています。一方、新興国は社会経済的要件を優先しています。従って、実体経済と整合した脱炭素化とは、技術の進歩と地域ごとの異なる気候政策に配慮し、気候変動対策がもたらす社会的・経済的チャンスを最大化するプロセスになります。
最近、ネットゼロ目標との整合性が一巡して再び注目されるようになり、パリ協定で示されたネットゼロ目標と、金融を通じた実体経済と脱炭素化との関係が重視されています。この枠組みの中では、金融の役割は、CO2排出原単位の高いセグメントをアンダーウェイトすることで達成する「紙の上」の脱炭素化よりも、目に見える貢献を優先して移行に向けた流れを促進することです。
いくつかの主要なイニシアチブでは、有意義なネットゼロとの整合性の枠組みについて議論を進めています。例えば、運用ポートフォリオのカーボンニュートラル(CO2排出量ゼロ)にコミットするアセットオーナーのイニシアチブ「Net-Zero Asset Owner Alliance(NZAOA)」や、気候変動に関する機関投資家団体の「The Institutional Investors Group on Climate Change (IIGCC)」などが挙げられます。
これらの原則の中心にあるのは、実体経済の脱炭素化を優先させることです。これは移行に積極的な企業や、移行に十分な準備を整えている企業など、移行のリーダーに報いることで達成されます。
そして移行準備を評価するために、セクター別および地域別の科学的根拠に基づくアプローチを採用することが必要です。 本リサーチペーパーでは、地域やセクター間のウエートをダイナミックに調整し、その変化を指数構築に組み込むことで得られる多種多様な利点を検証しています。結果として得られた指数は、移行リスクを効率的に軽減し、投資家のトラッキングエラー・バジェットをより有効に活用できることを示します。
各セクターにおいて、指数はグリーン資産を優先し、その結果、多様化した「グリーン・ベット(賭け)」戦略を促進するオーバーウェイトになっています。実体経済の脱炭素化には、公正なエネルギー移行と、企業の気候変動に対する野心やグリーン資本支出などの将来を見据えた指標も考慮されます。
電力セクターはエネルギー移行を先導し、新たな陸上風力発電や太陽光発電が多くの市場で最も費用対効果の高い電源として台頭しています。
ネットゼロ目標との整合性が担う役割は、金融ポートフォリオにおいて排出原単位の低減を目標にウエートを調整するにとどまりません。その主な目的は、移行に向けて流れる資金にインセンティブを与えることです。科学的根拠に基づくセクター別および地域別の排出経路を活用したベンチマーク指数は、ネットゼロへの移行を評価するためのより効果的なアプローチを提供します。
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