TCFD：気候目標へ向けた意欲的な道程　

規制当局や政府機関、企業は気候変動が世界市場の金融安定性にとってリスクであることを認識し、気候関連の財務リスク報告改善に注力しています。

気候関連財務情報開示タスクフォース（TCFD）提言は、世界各国で気候関連財務リスク報告の主要なフレームワークとして認められています。ブルームバーグがClimate Finance Week Ireland 2020（気候ファイナンス・ウィーク・アイルランド2020）と共同で主催したイベント「The TCFD Pathway to Raising Climate Ambition」では、専門家らが、世界市場がネットゼロ炭素経済に向けて移行する中でTCFDフレームワークが果たす役割を指摘しただけでなく、企業の気候関連報告を加速・改善するニーズに対し強いコンセンサスが固まりつつあることを示しました。1

ユーロ圏財務相会合（ユーログループ）の議長を務めるアイルランドのパスカル・ドナフー財務大臣は、「タスクフォースと既に課題に取り組んでいる企業によるTCFDの採用を歓迎し、ますます多くのアイルランド企業がそれぞれの気候移行計画を加速・拡大する中、それがさらに普及するよう積極的に推進します」と述べました。

グローバルな気候関連情報報告フレームワークとしてTCFDの影響力が拡大

TCFDに賛同する世界中の組織の数は1900を超え、時価総額にして合計19.8兆ドル、賛同する金融機関が運用する資産は合計175兆ドルに上ります。

TCFDフレームワークを実施し始めた企業は、社内の気候関連財務報告に改善が見られ、TCFDによって事業運営も改善したと述べています。

ブルームバーグのメアリー・シャピロ氏は、「企業のリスク管理・リスク特定能力が向上し、リスクを管理・低減する計画にも改善が見られます。その結果、このTCFDを実践していなかったら見逃していたかもしれない機会を見つけることにも役立っています」と指摘しています。

企業にとって前進を阻む中核的な要因は、明確で信頼できる統合された気候・環境関連データの不足です。だからこそ、官民セクターが一体となって、TCFDが2017年に確立した基盤を基に、それを拡張する必要があります。TCFDが初めて提言を発表したのは、気候関連の報告基準が断片化されるのを防ぐことが目的でした。

1 パネリストには、マイク・カーニー氏（国連気候変動対策・ファイナンス担当事務総長特使）、メアリー・シャピロ氏（TCFD事務局アドバイザー、ブルームバーグ・エル・ピーのグローバル公共政策副会長）、コリン・ハント氏（AIBグループCEO）が含まれます。

アイルランド最大の銀行、AIBグループのコリン・ハントCEOは、同行がTCFDの設立メンバーになったのは、サステナビリティのアジェンダを前進させ、脱炭素に向けて顧客をよりよく支援できると考えたためだったと述べています。

ハント氏は、今や同行の戦略と使命の中核ともいえるTCFDは同様の考えを持った企業や経済との関係におけるエンパワーメント（権限委譲）の素となり、財務面での透明性改善につながっていると言います。

「当社の貸し付け資産の評価や貸し付け資産全体を通したリスクのマッピングを可能とし、当行事業にとっての将来的な気候関連リスクと機会を認識し始めることができるため、TCFDは非常に有益だと考えます。最終的には、企業として、そして銀行として行うすべてのことに気候関連リスクが全面的に統合されることになるでしょう」

TCFDと新たな気候変動対策フロンティア

マーク・カーニー国連特使は、より多くの企業がAIBグループに倣って、あらゆる財務面での意思決定で気候変動を考慮する必要があると述べています。同氏はまた、TCFDは完全に企業の自主性に任されているため、そうすることが極めて重要であるとの見解も示しています。

「COP26に向けて私たちが行っていることの1つは、これを義務付け、より総合的なものとすることです」と同氏は述べています」

そうした取り組みには、IFRSのような国際基準設立団体と協力してサステナビリティ報告のグローバル基準を作成する一方で、金融の規制当局がTCFDフレームワークに沿った開示要件を設定できる道筋を付けることなどが含まれます。

ハント氏は、金融業界の前進にとって規制当局が重要な役割を果たす点を強調しました。

「規制当局は、リスクのウエート決定や気候リスクを機関の安定性にどう取り入れるかなど、金融業界において果たす役割が明らかにあります」

「そして、投資家にも、特にESGアジェンダに関して、より多くを企業から要求するという役割が明らかにあります。しかし、私がここで言いたいのは、企業が単に善良な、または責任感ある企業市民であれば良いというだけではない、ということです。営業するための社会的ライセンスを強化するというだけでなく、気候変動に関する行動を起こすということは、事業にとっても良いことなのです」

コロナ終息後の経済回復期には、企業は事業と世界市場の双方にとって、金融の安定に向け今まで以上にサステナブルな企業となることが重要です。シャピロ氏は、大企業や経済大国だけでなく、新興市場や小規模事業も同様の責任を負うと述べています。TCFDフレームワークは、スケーラビリティの原則を念頭に置いて開発されたため、あらゆる規模の企業と市場がその開示プロセスを開始して、時間をかけて独自のキャパシティを構築できます。

カーニー氏は「社会はネットゼロへの移行を望んでいます。機関や企業で働く私たち全員には、各自どのような役割を果たしているのかが問われているのです」と述べました。これら組織がそれぞれの責任を果たせば、気候関連リスクの管理とサステナブル投資がやがては主流となるでしょう。現在生じている問題は、企業も政府も銀行も、そして規制当局も、気候変動に対して手をこまねいているわけにはいかないことを示しています。

「別の道はありません。データを見てください。科学を見つめてください。どれも私たちの味方です」とハント氏は述べています。「唯一私たちの味方でないもの、それは時間です。もう時間がありません。これは私たち自身の世代の問題です。私たちは、現実的な切迫感と断固とした決意をもって気候変動アジェンダに今すぐ取り組まねばなりません。それを実現するには、あらゆる社会と、あらゆる企業とが一致団結しなければならないのです」

「唯一私たちの味方でないもの、それは時間です。もう時間がありません。これは私たち自身の世代の問題です。私たちは、現実的な切迫感と断固とした決意をもって気候変動アジェンダに今すぐ取り組まねばなりません。それを実現するには、あらゆる社会と、あらゆる企業とが一致団結しなければならないのです。

コリン・ハント氏、AIBグループCEO